第30回例会


パイプオルガンPipe Organ
―ニューイヤー・コンサート―
第1部
〜オルガンの調べ〜
L.C.ダカン/「ノエルスイス」
J.S.バッハ/「主よ人の望みの喜びよ」
 オルガン独奏:渡辺まゆみ

G.サンマルティーニ/「ソナタ ト長調」
 リコーダー:白澤 亨,皆川 要
 オルガン:井山靖子


G.フレスコバルディ/「半音階的カプリッチォ」
J.アラン/「クレマン・ジャヌカンのテーマによる変奏曲」
 オルガン独奏:海津 淳
第2部
〜アンサンブルの楽しみ〜
J.ダウランド/「我が命のひとよ」
C.モンテヴェルディ/「かくも甘き苦悩」,「あぁ、私は倒れてしまう」
 ソプラノ:風間左智
 リコーダー:皆川 要
 ビオラ・ダ・ガンバ:白澤 亨
 オルガン:笠原恒則

ジョン・レノン/「イマジン」
木村 弓/「いつも何度でも」
吉田ちあき/「ひつじ草」
C.フランク/「天使の糧」
 オカリナ:五十嵐正子,オカリナ・トーノ
 オルガン:笠原恒則

C.フランク/「パストラーレ」op.19
 オルガン独奏:市川純子

***曲目解説***

J.S.バッハ(J.S. Bach, 1685-1750)
「主よ人の望みの喜びよ」
 この曲の原曲は,カンタータ第147番「心と口と行いと生活で」(待降節第4日曜日・聖母訪問の祝日)の中の有名なコラール.親しみのある旋律の中にコラールが浮かび上がる.編曲はマルセル・デュリュフレ(1902-1986).(渡辺まゆみ)

L.C.ダカン(L.C. Daquin, 1694-1772)
「ノエルスイス」
 バッハとほぼ同時代に活躍したダカン(1694-1772)は早くからクラヴサンやオルガン奏者としての才能を示し,ヴェルサイユ宮廷礼拝堂とノートルダム寺院のオルガニストの地位を終生保った.この時代(フランス古典)のオルガン音楽は,色彩豊かなリード管のソロとアンサンブル,クラヴサン音楽と共通する洗練された装飾音奏法が特徴である.このノエルも変奏に伴って4種類の音色が代わる代わる出てくる.(渡辺まゆみ)

G.サンマルティーニ(G. Sammartini, 1695-1750)
ソナタ ト長調 Andante-Allegro-Largo-Presto
 名誉革命を経て超大国となったイングランドだが,天才パーセルが夭逝した後に自前の才能が育たなかったため,音楽の分野ではヘンデルその他の外国人音楽家が数多く集まる輸入大国でもあった.これら外国人音楽家のひとり,イタリアから渡ったサンマルティーニは皇太子付き室内楽団のオーボエ奏者として活躍し,その傍らトリオソナタやコンチェルトなどの作品をいくつか残した.明快な彼の曲は後期バロックのスタイルのなかに古典派を予感させる.(皆川 要)

G.フレスコバルディ(G. Frescobaldi, 1583-1643)
半音階的カプリッチォ
 サン・ピエトロの巨匠は,奔放なトッカータのみならず対位法の領域においても傑作を残した.《カプリッチォ第一巻》(1624/1626)中のこの四声の作品は半音階的主題と掛留による作曲上の技法を追求しながらも,同時代の天井画をおもわせる幻想性に満ちている.(海津 淳)

J.アラン(J. Alain, 1911-1940)
クレマン・ジャヌカンの主題による変奏曲
 O.メシアンと並び20世紀フランスを代表するアラン,彼は伝統的形式と素材を好んでとり入れたが,その稀有な感覚は常に現代性と古典様式を調和させ独自の世界を形成した.ここで和声,次いで対位法によって変奏されるのは16世紀の典雅な旋律である.(海津 淳)

J.ダウランド(J. Dowland, 1563-1626)
「我が命のひとよ」
 ルネサンス文化の黄金期にあったイングランドで活躍したダウランドは,伝統的なマドリガルからリュートソングのスタイルを開拓した.大陸放浪で接した流行の影響もあるだろうが,伴奏付き独唱のスタイルは「バロック音楽」と共通する新しいものであった.『我が命のひとよ』はマドリガルの伝統的手法 ―歌詞と音階の対応:Lasso(ラソ)vita mia(ミ),mi fa(ミファ) morire(レ)― が面白い名曲である.(皆川 要)

C.モンテヴェルディ(C. Monteverdi, 1567-1643)
「かくも甘き苦悩」, 「あぁ、私は倒れてしまう」
 先進地イタリアで「バロック音楽」の開拓者となったモンテヴェルディは,ダウランドと僅か4歳の違いである.ポリフォニーの基礎の上に流行のモノディを採り入れるなど意外に共通点のある2人だが,革新性と領域の広さでやはりモンテヴェルディの巨大さが際立つ.選曲上,特徴のひとつ「多彩なオーケストレーション」は示せないが,他の特徴「言葉が命」と「情景を効果的に表現する和音」は実感いただけると思う.(皆川 要)

覚和歌子 作詞,木村 弓 作曲
「いつも何度でも」 
 昨年大ヒットした宮崎駿監督,アニメーション映画『千と千尋の神隠し』の主題歌.作曲の木村弓は88年,シュタイナーの思想をもとに考案された竪琴ライアーと出会い,癒しと祈りに関わる歌に目覚め,独自のスタイルの弾き語りを確立.澄んだ歌声に多くの人が魅了された.(五十嵐正子)

ジョン・レノン 作詞・作曲
「イマジン」
 …天国も,地獄も,そして財産のない世界を想像してごらん… いつの日か,世界はひとつになったらいいと思う… 「イマジン」を作曲したとき,ジョン・レノンはこのようなメッセージを残している.昨年のニューヨーク同時多発テロ事件は,世界を悲しみと怒りと衝撃につつんだ.混乱の中でいくつかの楽曲が放送禁止となり,その中に「イマジン」も入っていた.ジョンの妻ヨーコ・オノは,それに抗議して新聞に一面広告を掲載.それが上記のメッセージだった.(五十嵐正子)

C.フランク(C. A. Franck, 1822-1890)
「天使の糧(パン)」
 セザール・フランクの荘厳ミサ「3声のミサ曲」イ長調よりとられた聖餐式の歌.この曲は,パンはキリストの体,ぶどう酒はキリストの血として信者がミサの中でいただく時に,歌い奏でられる.(五十嵐正子)

吉田ちあき 作詞・作曲
「ひつじぐさ」
 吉田ちあきこと吉田千秋は明治28年,新津市大鹿で吉田東伍の二男として生まれる.大正4年,専門誌『音楽界』に「ひつじぐさ」を発表.4声の合唱曲として書かれた曲は賛美歌の響きがする.当時学生の音楽愛好者に広まり,旧制三高ボート部員小口太郎が,自分の詩をこの曲のメロディーメロディーで歌ったのが「琵琶湖周航の歌」である.(五十嵐正子)

C.フランク(C. A. Franck, 1822-1890)
パストラーレ op.19
 パリ,サント-クロティルドの卓越したオルガニスト,フランクはヴィエルヌやトゥルヌミールのみならずヴァンサン・ダンディ,デュパルクらの師として大きな影響を及ぼしたフランス後期ロマン派の作曲家である.ミュゼット風の長いペダルの上で揺れ動く詩的な楽想にはじまり,民族舞曲をおもわせる短調のトッカータ的中間部をへて,再び最初のテーマにもどる<パストラーレ>は,彼の音楽の常として,そうした部分をさらに複数のテーマがモザイク的に構築してゆく一楽章構成の作品である.時代は繊細かつ英雄的なロマンティック・オルガンの響きの中にあり,この詩情あふれる作品も彼の友人であるオルガン建造家カヴァイエ-コルに献呈されている.(海津 淳)